老人ホームの入居者が亡くなった場合、相続税の申告や納税先がどこになるのか、疑問に感じる人は多いです。また、相続税だけではなく、老人ホームの入居者が亡くなったときには、さまざまなお金の問題が生じます。
そこで、今回は老人ホームの入居者が亡くなったときの、相続税申告先・納税先や、返還された入居一時金の取り扱い、入居前の自宅土地の評価などについて幅広く解説していきます。
目次
相続税の申告・納税先について
老人ホームの入居者が亡くなったときの相続税の申告先・納税先は、「老人ホームのある地域を管轄する税務署」です。自宅が残っている場合は、つい自宅の所在地の税務署をイメージしてしまいがちですが、実際は老人ホームとなるため注意してください。
老人ホームの所在地が相続税の申告・納税先となる理由は、亡くなった人が生前に拠点としていたところを住所とし、その地域の税務署に納付することが定められているからです。
そのため、入居者が入居前に暮らしていた自宅のある地域に申告・納税することは認められていません。
老人ホームの住所がわからないときには、直接問い合わせて確認するか、公式ホームページや、地図などから調べてみると良いでしょう。
入居一時金の取り扱いの判断
老人ホームに入居する際に支払った「入居一時金」は、入居者が亡くなると返還されます。返還された入居一時期をどのように取り扱うかは、支払った人を基準として判断しましょう。
たとえば、夫婦で入居し、夫が入居一時金を支払うケースで、妻が亡くなったときには返還された一時金は夫の相続財産に計上するのが適切な取り扱いとなります。
仮に、1人で入居して亡くなり、入居者本人が入居一時金を支払っていた場合には、そのまま本人の相続財産に計上します。
いずれにせよ、遺族の一存で返還された入居一時金を扱えるわけではないため注意しましょう。
入居中の利用料を負担したときの対応
入居中の利用料を負担した場合は、債務に計上できます。相続税申告においては、相続開始後に老人ホームの入居中の利用料を支払った場合、扶養義務者の支払いと認定されなければ、債務として計上したうえで相続財産から控除可能です。
なお、相続税の申告は、遺産の総額が基礎控除額を超える場合にのみ必要です。仮に基礎控除額よりも遺産の総額のほうが低い場合には相続税の申告は必要ありません。
ちなみに、基礎控除額は以下の計算式で算出できます。
【基礎控除額の計算】
基礎控除額=3,000万円+600万円×法廷相続人の数
相続において気になる「遺産の総額の計算」をするためには、土地や建物、金融、保険など、そもそもどのような遺産があるのかを明確にする必要があります。遺産の種類を把握したうえで、以下を参考に計算してみましょう。
【遺産総額の計算】
遺産総額=土地の評価額+建物の評価額+金融資産+生命保険-債務-葬儀費用
遺産の総額は、葬儀費用を差し引いて残った分を指します。相続対象となる資産すべてを正味の遺産総額となるわけではないため注意してください。
また、上記の計算式は、いわゆる「プラスの資産」のみを加算した計算式となります。被相続人本人に借入金や未払い金などの「マイナスの資産」も相続の対象となるため、遺産総額の計算を行う際に加えるのを忘れないようにしましょう。
入居前の土地の評価について
老人ホームに入居する前に住んでいた土地は、どのようにして評価されるのでしょうか。
ここからは、具体的な土地の評価について詳しく解説していきます。
要件を満たせば土地の評価額は減額できる
亡くなった人が、老人ホーム入居前に住んでいた土地は、一定の要件を満たすことで評価額を減額することが可能です。該当する特例は「小規模宅地などの特例」であり、相続した土地の評価額を最大で8割減額できるのが特徴です。
土地の評価額が下がれば、相続税対策になるので、特例の要件を満たせるのであれば活用したい制度です。
特例を適用できる人に要件あり
特例を適用できるのは、大きく3つの要件を満たす人です。
・被相続人の配偶者であること
・被相続人と同居していた(親族のみ該当)
・配偶者や親族がおらず誰とも同居もしていないものの「家なき子特例」に該当する相続人
家なき子特例とは同居をしておらず、親族でもない人が一定の要件を満たすことで特例を受けられる制度のことです。
家なき子特例が適用されるのは、主に以下の要件を満たす人です。
【家なき子特例が適用される要件】
・被相続人に配偶者がいない
・被相続人に同居していた親族がいない
・相続した土地を申告期限まで有している
・相続開始前の3年以内に相続人の持つ日本の家屋に居住したことがない
・相続時に被相続人(もしくは相続人)が日本に住んでいる
・相続人が日本国籍を有している
配偶者や同居していた親族がいない人が亡くなった場合には、自身の状況と上記の要件と照らし合わせ、家なき子特例が適用されるか否かを判断しましょう。
おわりに
老人ホームの入居者が亡くなった場合は、相続税をはじめさまざまなお金の問題が出てきます。亡くなった本人があらかじめどのように相続するかを調べて共有していないと、親族が対応に追われることとなるため正しく理解を深めたうえで適切に申告や納税を進めていかなければなりません。
不安な人は、弁護士への相続相談も視野に入れて、スムーズな対応ができるようにしましょう。